心のこと~for Mind&Spirit

症状の3つの機能 欲求編

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痛み(症状)を憎んでしまうあなたへ~2

朝、急にお腹が痛くなって、学校へ行けそうもない。
そして、休むことが決まってしまうと、なぜか痛みが消えて行き、
病院へ行く前に、けろっと治ってしまう。
結局、学校へは行きたかったのだろうか、
行きたくなかったのだろうか。
たぶん、行きたくなかったんだと思う。
行きたくないという欲求が満たされるために、
症状を利用してるように見える。

似たような経験はない?
こどもの時、
いやいや、いま。
おとなになった、いま。
むしろ、こどもより厄介なくらい。
おとなは、あれやこれやと言い訳を考え出すんだからさ。
今回、取り上げるのは、欲求と症状の関係だ。
まず、根っこにある4対の欲求を紹介する。
それから、いくつかの事例を提示するので、
欲求と症状の関係を見てもらう。
それと、断っておくんだけど、
この考えは、症状に苦しむ人を鞭打つためのものではなく、
症状に苦しむ人が、症状の支配から自由を取り戻すためのものだ。
出口は、燃えさかる炎の火元にこそ見つかるんだ。
では、さっそく、

4対の本当の欲求

ほんの少し専門っぽいことを書く。
心理学をかじったことのある人は、
欲求と聞くとマズローを思い出すかもしれない。
マズローのモデルは、自己実現へ向かう成長段階を示したものだ。
だけど、ここで言う欲求は、それを当てない。
理由は簡単、このモデルから症状は見えにくいと思うから。
分かりたいのは、ときに過労死すら辞さない欲求だ。
そこで、ヘイル・ドゥオスキンの本(参考図書のページを参照)から
欲求の類型を引用しつつ、筆者なりに解釈したことを記す。
曲解があるとすれば、筆者の責任だってことはお断りしておく。
まずはどんな欲求があるかだけど、

A)コントロール欲求(a)とコントロールされたい欲求(a’)

  (a )「自分が状況をコントロールしたい」
  (a’)「自分で状況をコントロールなんかできっこない。
        だから、だれかに責任を負ってほしい」

自分の人生を思い通りに生きることができたら、楽しいに違いない。
とっても多くの人が望むことの1つ。
だけど、この欲求を持ってるってことは、
本当は、コントロールできてないと思ってる!
そんな人が多いから、書店に行けば、たいていの書棚にこのたぐいをみつけることができる。
人生をコントロールしたい、お金をコントロールしたい、健康をコントロールしたい、子どもや他者をコントロールしたい。
学校では、子どもはコントロールされることを受け入れなければならず、そうしなければ、コントロールの仕方を学べない。
そして、社会に出れば、コントロールされたフリしながら、他者をコントロールして、自分を優位におくよう頑張る。
自分の信じる「~すべき」を他の人も取り入れるべき、とか言ったり、
いかに人生を制御し謳歌してるかを見せびらかして、安心しようとしたり。
こんな表出の仕方が(a)だ。

逆に、自分の力ではどうにもならないと思ってしまったとき、
(a’)のように表れる。
他者へ依存して、うまく行かないときには、その人を責めたりするんだ。
「だって、あなたが言ったから、そうしたのに!」って。

B)承認欲求(b)と否認欲求(b’)

  (b )「他者に自分を認めてほしい」
  (b’)「どうせ自分など認められっこないのだ。
         裏切ってしまえ」

そりゃ、人に認められたら嬉しい。
とっても多くの人が望むことの1つ。
だけど、この欲求を持ってるってことは、本当は、
認められてないと思ってるし、どうせ認められないとも思ってる!
下手をすると、生きることが難しくなるくらい切実に、
自分で自分を認めてない。
この欲求を身につける最初は、
たぶん親、あるいは保護者としての大人に褒められようとすることだ。
物心つく時分から、親に褒めてもらうことは、単純なうれしいではなくなる。
それは、親からの関心のあるなしが、
子にとっては生存に直結することだからだ。
子にとって、関心を引けた証が、褒められることであるし、
また、反対の叱られるも、関心を引けた証となり得る。
こうしたことが、本来、条件のないはずだった存在に、
承認を条件として強く結びつけることになる。
自分が存在するためには、他者からの承認が必要だと思い込んでしまうんだ。
そして、親だけでなく、先生やコーチ、友人や同僚、ネットの向こうの人たち、承認を求める対象は広がって行く。
嫌だと思うことですら、
承認されないことを怖れ、嫌とは言えなかったりする。
これが、(b)としての表出だ。

ときにはどうようもなく、承認を得られないこともある。
就職面接、恋愛などの場面で、起こりやすいかもしれない。
思ったような承認が得られない経験が重なると、
承認されない不安に苛まれるくらいならと、
あえて、承認の拒絶を示すことがある。
嫌われるような態度を取るなど、承認を気にしないフリをする。
「やっぱりね。どうせ、わたしのこと好きになれないでしょ」って。
これが、(b’)だが、その底にある欲求は、承認されたいだ。

C)安全欲求(c)と死にたい欲求(c’)

  (c )「人生は脅威に満ちている。リスクを最小限にしなければ」
  (c’)「人生は悪意に満ちていてつらい。死んで楽になりたい」

安全を求めるのは、しごく当然に思えるかもしれない。
安心して暮らしたい、そう思って悪いことはないはずだ。
これも、とっても多くの人が望むことの1つ。
だけど、ほんの小さな変化や決定に対しても、
人生に脅威をもたらすと感じるなら、どうだろう?
石橋を叩いて叩いて、渡らないみたいな。
たとえば、ある野球選手になろうとした人の話だ。

バッターボックスに立ったなら、いずれはバットを振らなきゃならない。
どんな強打者だろうと、バットを振ったら、
確実にホームランになるわけじゃないってことは知ってる。
練習すれば、打てる確率は上がるかもしれないとも思うけど、
そこに保証はない。
それでも、いつかどこかで安全よりリスクを取って、
空振り上等、凡打上等、笑われて上等、
バットを振るしかないんだけど、
欲求(c)が強いこの人は、バットを振らない。
それどころか、バッターボックスに立つことすらやめようとする。

ちょっと極端なたとえだったけど、
新しいことに挑戦しようとするときなど、期待感の、
その脇に尻込みするような気分を感じる人は多いはずだ。

逆に、どんなボールが来ても、かまわずにバットを振る。
避けられる危険すら省みず、飛び込んでいく。
自暴自棄のような態度になることがあるとするなら、
それが(c’)だ。
いずれにしろ、人生は安全でないと思ってるし、
周りは敵ばかりだと思ってる

D)分離欲求(d)と一体欲求(d’)

  (d )「自分らしくありたい。自分は特別な存在だ。それを証明したい」
  (d’)「孤独だ」

この欲求は、これまでの3対とは、だいぶ違う。
微妙だし、わかりにくい。
違いを強調しようとする(d)は、違いがないと思ってるってことだし、
一体・同質であろうとする(d’)は、自分だけが異質だと思ってる
これらは、日常、頻繁に表れる。
実は、これが次回「分離と統合編」のテーマになるんだ。
症状のもう1つの機能を司るから、そのときに詳しく書く。

さて、これら4対の欲求は、ほとんどの人の心にある。
たいていは、上に書いたほど極端ではなく、
様々な局面で、強かったり弱かったりして、
その人の行動を左右してる。

欲求を満たすために

自分が、いまの状況をどうにかしなくてはと思う。(コントロール欲求)
親、先生(上司)、クラスメート(同僚)の顔が浮かぶ。(承認欲求)
いじめられるかもしれない。(安全欲求)
クラス(部署)の中で、自分だけ浮いてる気がする。(分離・一体欲求)

ここに書き出したのは、学校(職場)へ行く日の朝、
だれかの頭に浮かんだことだ。
どの欲求も十分に弱ければ、この人は学校(職場)へ向かう。たぶん躊躇なく。
問題は、欲求のいくつかが高くなってる場合だけど、
欲求を覆い隠す要素、成績とか、家庭環境とか、それまでの経験とか、
生きるにともない理屈が増えて、簡単に行動は「~だ」とは言えない。
言えるのは、欲求を満たそうとして行動は起きるってこと。
症状を使ってでも欲求を満たそうとする。
病気になっても、死んでも、人生を投げ出したってかまわないくらいに。
ちょっと、注意を付け加えておくと、
これはだれにでも起こることなんだ。
このことに、心が強いとか弱いとかは、まったく関係ない。
もし、そんな言葉を持ち出す人がいたら、その言葉によって、
「あなたはどんな欲求を隠そうとしてるの?」って問いたい。

次に、欲求が絡んでそうな例をいくつかあげてみるから、
どんな欲求が関係してるか想像してみてね。

・80代の女性は、腰の痛みに悩んでいた。
 痛みが酷くなるたびに、息子に車で病院まで送迎してもらう。

・30代の女性は、友人から誘いを受けると、時折、気分がすぐれなくなった。
 それでも断れず、付き合ったあと、寝込んでしまう。

・20代男性は、ベッドに入っても寝付けない日が続いている。
 朝、目覚めが悪いし、身体が重い。
 連日、仕事が忙しく、休日も取れていない。
 
・40代男性は、自動車を運転して、日頃のストレスを解消している。
 つい最近、失礼な割り込みをしてきた車があった。
 ちょっと懲らしめてやろうと、あおり運転をしてしまった。

・30代男性は、プロジェクトリーダーを任されて、張り切っていた。
 それなのに、突然、ぎっくり腰になってしまい、現場を離脱した。

・50代女性は、ダイエットしようとしていたが、
 今日も菓子を摘まんでしまった。

欲求は、満たされない

食欲求、排泄欲求などは、生きる身体の機能として生じている。
満たされたら、次に欲求を感じるまで、さほど意識されない。
ところが、根っこの4対の欲求は少し違うんだ。
これらは、思考から生じてる。

もし、コントロール欲求が満たされたとする。
すると、たちまちコントロールが出来ていない事物を見つけてしまう。
当然だ。
人生でコントロールの及ばない範囲の方が圧倒的に大きいし、
本心にあるのが「コントロールできていない」だから。

承認欲求もそう。
満たされたとする。
たちまち満たされてない事物を見つけてしまう。
さっきは承認してくれたとしても、
次の瞬間には、そっぽを向かれるかもしれないし、
あるいは、初めから満たしてくれない人が必ずいる。
全人類が、自分を承認してくれるなんてあり得ないんだから当たり前。
なのに、たとえば、
10人いて、そのうちの9人があなたを承認してくれたとする。
あなたが気にしてしまうのは、承認をくれなかった残り1人のことだ。
9人より、1人を相手に悩むことをしてしまう。
この欲求が、「どうせ、認めてくれやしない」ってとこから生じてるからだし、
ひょっとすると、残りの1人って自分自身だから。

安全欲求も、分離・一体欲求も同様だ。
欲求が満足されたとしても、すぐその周囲に不満足を見出せる。
むしろ、もしかして満たされてしまった束の間が、
満たされなさを際立たせてしまう。
だから、ここにも症状が使われる。
「だって、しょうがないじゃん、痛いんだから」って。

欲求を満たそうとするために、症状は使われ、
欲求の不満足を慰めるために、症状は使われる。

これが、欲求と症状の関係だ。
このことを別の見方をすれば、
症状には、欲求に縛られてることを教えてくれる機能があるってことだ。

欲求と付き合う

もし、あなたの症状が欲求に絡んでるのなら、
抜け出るのは容易ではないかもしれない。
じゃあ、どうするか。
第1にすべきは、逃げる、病院へ行くなど、助けを求めることだ。
そして、一息つけたら、あなたの出来ることがある。
あなたにしか出来ないことだ。
それは、自分の心を見つめること。
あんなこと言わなきゃよかった、やらなきゃよかった。
って後悔してることはない?
それ、どの欲求が絡んでる?
その辺から始めて、自分の欲求に気がつこう。
まず、気がつくことが大事。
それから、「ああ、それはあるな」って認める。
自分にウソをついたって、しょうがないじゃん。
そうすれば、何らかの変化が起きる余地ができる。
他者の欲求は気にしなくていいのよ。
もし、このことで他者をあげつらうような気持ちになったら、
チャンス!
その気持ちは、どの欲求から来てるか、
自分自身の欲求に気がつける!

気がついて、認めたら、どうするか。
何もしない。
消そうとか、抑え込もうとかしない。
そんなことしたら、欲求は増大して、あなたは飲み込まれる。
我慢強いとか言われる人ほど、危ない。
だから、やることは、
欲求に気がつき、それを認める。
これだけ。
症状に変化があろうとなかろうと、やり続ける。
変化があったらラッキーぐらいな感じで。
やがて、うまく行ったとき、なぜだか笑ってしまうはずだ。
この単純さに。
さあ、やろう。

まとめ:船頭はどこへ行ったか

人生を川の流れにたとえれば、
竿を握って舟の舳先に立ってる船頭が、あなただ。
岩場が近づいたら、竿の先で岩を突いて、舟の衝突を防ぐ。
舟は、川の流れに乗って、その先々で、いろいろな景色を見せてくれる。
もちろん、通るのは流れの穏やかな場所だけではない。
そんなときでも、あなたは、しっかり立って舟を操れるはずだ。
それなのに、

コントロール欲求に捕らわれているとき、
川の流れを変えようとしたり、先々まで流れを見通そうと、
船頭は舟を遠く離れてしまう。
いずれ舟は岩場にぶつかるだろう。

承認欲求に捕らわれているとき、
舟がどんな風に見られているのかを気にして、
船頭は、たびたび舟を離れ、自分の舟を確認しようとする。
いずれ舟は岩場にぶつかるだろう。

安全欲求に捕らわれているとき、
船頭は、舟が進まないようにしようとする。
岸にしがみつこうとしたり、竿を突き立ててみたり、
やがて、船頭は疲れ果て、舟は岩場にぶつかるだろう。

分離・一体欲求に捕らわれているとき、
自分の舟と他の舟を見比べるだろう。
同じだと思っては嘆き、違いを見ては嘆く。
やがては、同じ海に辿り着くだけなのに。

症状は、呼び戻そうとしている、あなたを。
欲求からの解放の道を示しそうとして。
あなたは逃げる。逃げおおせるはずもないのに。
なにしろ、症状もまた、あなたなのだから。

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