身体のこと~for Body

曲がらないところを曲げて、痛い! 身体の構造~腰(1) 

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マッピングの錯誤

社長!現場が大変です!
と、連絡が入って、現場を無視した命令を出す社長は、嫌われもするだろうが、そんなことより、現場により一層の混乱と疲弊をもたらすことが問題となるだろう。

その点は、身体も同じ。
社長である頭がトンチンカンな命令を出して、身体を動かそうとするなら、痛みという現場の悲鳴が聞こえるかもしれない。
身体を動かすということを観察するなら、頭の中にあるイメージと照合しながら、実際の身体を動かしていることに気づけるはずだ。
もし、この、頭の中にあるイメージが間違っていたら、どうだろう?
「マッピングの錯誤」と言うのだが、これだけで十分、身体に痛みを引き起こすこともあり得よう。

今回のテーマは腰の構造。
背骨は、丸められるけど、曲がらない。

想像してみよう。
爬虫類のヘビは、くねくねと身体を丸めたり伸ばしたりするが、折るように曲げたりはしない。

そんな当たり前のことなのだが、人はやってしまう。
これに気がつかず、痛いなんて…。
知ってしまえば、どうってことない。
実際、この説明だけで、ずいぶん楽になる人は多い。
だから、社長であるあなたは、まず現場を確認しなければいけないのだ。

骨格図を見て、確認しよう

背骨の図(図1)の解説

骨格図の登場だ。
もっと自在に加工できる図を見つけられればよかったのだが、まあ、これでも分かっていただけると思う。

図1 背骨を左側から見たところ

図1 背骨を左側から見たところ

図1をよく見てみよう。首から尾てい骨まで、背骨だけを取り出して、左側から描いたものだ。[前]と書いてある側が腹側で、[後]と書いてある側が背中側だ。
背中側は、ギザギザと突起が並んでいる。これは自分の身体で確認できる。背中の真ん中を指でなぞったときに、凸凹と触れるのが、まさしくそれだ。
背骨全体は緩やかなS字カーブをしている。それにより、しなったり、たわんだりして衝撃を吸収することができる。それは、脳を守るためと言っていい。
そして、当然のことながら、上の方より、体重のかかる下の方が、より太く頑丈になっている。

背骨を構成する骨は、20数個の椎骨(ついこつ)という骨が、皿を重ねるのと似たように、積み重なってできている。その皿と皿の間のクッション材が、おなじみの椎間板だ。
椎骨1つ1つは、アルファベットと、上からの順番を表す番号の組み合わせで呼称される。
上から7つが、首の骨、頸椎。cervicalの頭文字をつけて、C1~C7。
次いで、胸の骨、胸椎が12個で、ここには描かれていないが、肋骨と関節を介して接続している。thoracicの頭文字をつけて、T1~T12。
さらに、腰の骨が5つあり、lumbarの頭文字をつけて、L1~L5。
その下は、骨盤を形成するので、骨盤に入れてしまうこともあるぐらいだが、れっきとした背骨。仙椎とも呼ばれる(sacralの頭文字をつけて、S1~S5)が、癒合していて、つまり、くっついて1つの骨のようになっているので、仙骨と呼ばれることが多い。
そして、1番下になるのが、尻もちをつくと痛いところ、尾骨だ。

椎骨の図(図2)の解説

次に、椎骨がどうなっているのか、確認しておこう。
C1とC2は頭の回旋運動(左右に首を振る動き)のために、少しばかり特殊な形をしている。このことは、首編で詳しく見るつもりだ。
それと、仙骨や尾骨も骨盤を形作るのにも参加しているので、特殊形状になる。
その他の椎骨は、基本的に似たようなものだ。その代表的な椎骨を取り出したのが、図2だ。
椎骨は、2つの部分に分けて見ることができる。腹側の椎体(ついたい)と、背側の椎弓(ついきゅう)だ。その間には、椎孔(ついこう)という穴が開いている。

図2 椎骨の1つ 椎間板と脊髄の関係が見える。

図2 椎骨の1つ 椎間板と脊髄の関係が見える。

椎体:図2の左側にピンク色したものが見えるが、これが椎間板。ここには表現されていないが、繊維状の軟骨がドーナツ状に層を作った中に、ゼリー状の髄核(ずいかく)がある。という構造をしている。
その椎間板の乗っている円柱状の部分を椎体と言い、ここが体重を支えている。

椎弓:右側の突起だらけで複雑そうに見えるのが、椎弓と呼ばれる部分で、上下の椎骨や、胸椎なら肋骨につながる関節がある。

椎孔:椎体と椎弓の間に貫通している穴があり、これを椎孔(ついこう)という。ここを脊柱管が貫いている。その中を脊髄が通り、脊髄から分岐した神経が、ヒゲのように出ている。

さて、ここまで説明しておくと、医師の言うことが理解できるようになる。
腰を診てもらったときに、「4番と5番だね」みたいに言われたら、どういうことだろう?

腰を診てもらっているのだから、Lの付く骨の番号で、L4-L5。この2つの椎骨に挟まれている椎間板の髄核が、背中側にヘルニアをを起こし(はみ出しちゃって)、神経を圧迫しているようだって、言われたってこと。

だけど、ここで言いたいことは、そういうことではない。
いくつか用語を紹介したが、それは説明の便利のためでしかなく、解剖学をやろうというのではない。
社長であるあなたは、現場を凌駕するほどの細かい知識は必要ない。
トンチンカンな命令をせず、大局を見通すための、少量の知識がいるだけだ。
そして、あなたの持っているイメージを書き換えることだ。

勘違いの修正

体重がかかる場所
図3 背骨の位置 身体の表面を描いてみると、背骨はかなり腹よりにある。

図3 背骨の位置
身体の表面を描いてみると、背骨はかなり腹よりにある。

背中に背骨の突起が触れてしまうことが、勘違いを生じさせている要因の1つだ。
そこに体重がかかっていると錯覚してしまう。
しかも、「背骨の中を脊髄が通っている」という言い方が輪を掛ける。
多くの人にとって背骨とは、
背中の皮に張り付き、棘のついた、脊髄を春巻きの具のようにくるんだ椎体のことなのだ。

そのため、何が起こるか。
背骨を手助けしようとするのだ。
身体が前に傾いてしまうのを防ぐため、また、脊髄を守るため、身体を後ろに反らせてしまう。腹を突き出してしまうということをする。
それは、腰部を収縮させることになり、腰部筋肉群の緊張を強いることになる。そうやって、腰に張りを作り出す。

実際はどうかというと、前述したように、体重がかかるのは椎体部である。
椎体に隣接して脊髄はあるが、脊髄には体重はかからない。
そして、体重がかかるべきは、背中のすぐ内側ではなく、もっと腹側なのだ。
図3を見てほしい。思ったより、腹側にあるのが分かる。さらに、もっとも体重のかかる腰部の椎体は、頸部ほどの太さがある。
だから、余分な力を抜き、安心して、ここに乗ろう。

ついでに言うと…、
姿勢の先生は、「頭のてっぺんを糸で引っ張り上げたように立ちましょう」なんて言う。
これはこれでいいのだが、ちゃんと糸は切っておくことをお勧めする。
でないと、姿勢をキープしようとして、背中の筋肉を緊張させたままになる。
背中が痛い人の中には、先生の言うことを聞き過ぎの人もいる。
糸はない。
人は糸につるされているのでも、引っ張り上げられているのでもない。
乗っているのだ。
ノリがよかろうが悪かろうが、乗っている。
地面の上に、床の上に、足、膝、腰、胴体、頭、順々に乗っている。

曲がる場所
図4 ベルトラインと股関節 ベルトラインに曲げられる関節はない。曲げられるのは股関節だ。

図4 ベルトラインと股関節
ベルトラインに曲げられる関節はない。曲げられるのは股関節だ。

お辞儀をするとき、あるいは、落とした物を拾おうとするとき、人は腰を曲げる。
どこを曲げる?
図1を思い出してほしい。
背骨に曲がる関節はない。
と言うと語弊があるかもしれないが、あえて言う。
背骨は曲がらない。丸めることができるだけだ。
頸椎は、可動性はある方だが、それでも、そこに折れるような関節はない。
胸椎は、肋骨があるため、可動性は低い。そこにも折れる関節はない。
腰椎は、胸椎に比べれば、可動性はある方だ。が、そこにも折れる関節はない。
そして、骨盤も折れない。
その付近で大きく曲がることが可能なのは、股関節だけだ。
にもかかわらず、股関節は伸ばしたまま、骨盤の上、ベルトを止める場所で曲げていないだろうか。

頭はイメージする。
「股関節を曲げるほど大げさなことじゃない。ベルトのところで曲げれば間に合う。その方が省エネだ」
そうやって、負担を現場に押しつける。
現場は言うだろう。
「ええ、そりゃ、言われりゃ、曲げて見せやすけどね。
いや、ほんとに曲がるってぇわけじゃなく、椎骨みんなで、そう見せるんでさぁ。
股関節さんほど大きい筋肉を持ち合わせてるわけじゃありやせんから、そりゃ大変です。
でも、命令ですからね。わしらに逆らうことなんてできっこないんです。
おっと、痛てててえ。
味方をしてくださるのは、マナーや礼法の先生ぐらいですかねぇ」

椅子に浅く腰掛けて、足を投げ出す。
これを楽だと錯覚するのは、頭だけだ。
もちろん、その錯覚を楽しむときがあってもいい。
しかし、その間、背骨も、肺も、胃も窮屈な思いをしなければいけなくなっている。
これを忘れてはいけない。
だいたいこのような座り方を長く続けると、腰椎L1のあたりが、飛び出すように変形する人もいる。

そして、彼らは、今日も社長室に通じる非常ベルを鳴らし続けるのだ。

まとめ

何枚か図を入れて書いたのは、イメージ作りのためだ。
できれば、何度も見直して、実際に身体を動かしていただきたい。
時代劇の動きを真似するのもいいだろう。
時には、着物を着て動いてみると、より分かりやすいかもしれない。
洋装文化が悪いと言うわけではないが、腰骨の上で止めるということが、上と下の分離を作り出し、身体のさばきを下手にしている気がする。
その点、腰パンというのが注目される。
だらしのない印象で嫌われているのだろうが、理解してやれば、理にかなっているとも言えるのだ。
実は、筆者、人前に出ない時は、腰パンで過ごすこともある。

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